このサイトでは、患者が感じる医師の共感を数値化する質問紙である The Consultation and Relational Empathy (CARE) Measure の日本語版の紹介を中心に、関連する研究を紹介いたします。

共感にはさまざまな定義がありますが、

  • 「相手の感情や考え方を、もし自分がその人であればと考え、理解すること」(Rogers, 1959)[*1]
  • 「自他を区別した上で、他者の感情を、理解し、感じ、共有すること」(Eklund, 2021)[*2]

といったものがあります。

医師が患者に対して共感的に接すると、患者が感じる診療への満足度が上がることがわかっています(Keshtkar, 2024)(Howick, 2018)[*3, 4]。さらに最近の研究では、医師の共感が2型糖尿病患者の心血管イベントの発症率低下に寄与する可能性があること(Licciardone, 2024)[*5]や、慢性腰痛の軽減に関係する可能性があることなど(Dambha-Miller, 2019)[*6]、診療アウトカムに直結しうることがわかってきています。

The Consultation and Relational Empathy (CARE) Measure は、2004年にStewart W Mercer および英国グラスゴー大学・エディンバラ大学の研究チームによって作成された質問紙です。CARE Measureは10項目の質問から成り立ちます。それぞれの質問に1-5点、もしくは評価不能をマークしていくだけですので、手軽に取り組める質問紙です。

CARE Measureにより、臨床医と患者の間で1対1の面接が行われた後、診療で患者が感じた医師の共感を測定できます。歴史的には20世紀に医師の共感を測定するために多くの質問紙が作られてきました。しかし、そのほとんどは医師自身による評価もしくは、診察を観察している第三者が評価する質問紙でした。

CARE Measureは共感の受け手である患者が医師を評価するという特徴を持ちます。もともとは、プライマリ・ケア医の共感を評価するために発展してきましたが、今では看護師はじめ、その他の医療従事者の共感を測定することもできると言われています。

CARE Measureの著作権は、英語版および翻訳版(日本語版を含む)の全てについて、スコットランド政府を代理してStewart W Mercerが保有しています。よって許可のない改変・商用利用は、禁じられています。

2004年に英語版 CARE Measure が発表されてから、世界中でその翻訳版が作成されました。

当教室でも、日本語版 CARE Measure の開発に取り組んできました。2014年に、英語版 CARE Measure から日本語版 CARE Measure へ翻訳し、その信頼性・妥当性を明らかにしました (*1) 。

その後、信頼性のある結果を得るために何枚の CARE Measure を集めればいいかを明らかにしました (*2)。

日本語版 CARE Measure を使用した更なる共感の研究が期待されています。

日本語版 CARE Measure のダウンロード

以下のボタンより名古屋大学学術機関レポジトリにアクセスし、「日本語版 CARE Measure 質問紙 : 患者による医師の評価表」の J-CARE(110705)rev3 (108.54KB) のリンクをクリックしてください。

ダウンロードページへ

利用規約

  • 著作権は Stewart W Mercer が有します。許可なき改変・商用利用を禁じます。
  • 利用に際しては、当サイト内のメールフォームから申請願います。
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  • 日本語版 CARE Measure を用いて研究報告を行う場合は、*1: Aomatsu M, et al., Fam Pract 2014.を引用してください。

FAQは The CARE Measure Website ( https://caremeasure.stir.ac.uk/ ) を参考に作成しました。一部、日本語版に合わせて改変しています。


対象となる患者さんについて教えてください。

CARE Measureを依頼する患者さんは、コミュニケーション能力の重篤な低下がなく、認知機能障害がない成人を想定されています。CARE Measureはもともとはプライマリ・ケア領域における外来診療での患者さんを対象に作られました。そのため外来患者が最も適しています。しかし、最近では在宅診療においても使用できることがわかりました。一方、入院患者を対象には作られておらず、入院患者からの評価は現在のところ難しいとされています。


何枚の CARE Measure を集めれば1人の医師の共感を評価できたといえますか?

理想的には50人の患者から質問紙を集めることが望ましいです。当科の研究(*2)では10項目すべてに適切に回答した患者38人の評価があれば、1人の医師の共感を評価できることがわかりました。すべての回答に適切に答えた患者は80%程度(*1) でしたので、50人の患者からの収集が望ましいと考えられています。


CARE Measure をとるタイミングを教えてください。

対象となる患者さんは診療の後に CARE Measure を記載します。待合室で記載することが望ましいですが、自宅に帰ってから記載することもできます。患者さんが緊張しないように、研究者は同席しない方がよいでしょう。


CARE Measure 1枚を完成させるのに、患者さんはどれくらい時間が必要ですか?

1枚の CARE Measure を完成させるために必要な平均時間は約10分です。


CARE Measure は患者さんの負担になりませんか?

私たちの経験では、質問紙への依頼をするとほとんどの患者さんは回答をしてくれます。むしろ一番大きな障害は研究者側の問題です。臨床医は診療の後に CARE Measure を渡すことを忘れてしまいがちです。もしくは質問紙に答えることが患者に負担を与えてしまうのではないかと心配し、質問紙の配布を躊躇します。しかし、CARE Measure の質問紙に患者さんが答えることは、患者さんにとって、医師に対して共感に関するフィードバックをするという利点があります。


CARE Measure の平均点を教えてください。

私たちの先行研究では、参加した医師の平均の CARE Measure の得点は、50点満点中 38.8点でした。詳しい解析では、有効な回答を38人から集めた場合、CARE Measure 36点以下で有意に共感が低く、42点以上で有意に共感が高いといえます(*2)。

日本語版 CARE Measure 参考文献

A 2-item version of the Japanese Consultation and Relational Empathy measure: a pilot study using secondary analysis of a cross-sectional survey in primary care.

Takahashi N, Matsuhisa T, Takahashi K, Aomatsu M, Mercer SW, Ban N.
Family Practice, 2022; cmac034,

https://doi.org/10.1093/fampra/cmac034

日本語版CARE Measureの場合は質問6「あなたに対する配慮や思いやりを示した」と質問9「あなたが主体的に取り組めるよう援助してくれた」の2項目でも妥当に医師の共感を評価できる可能性を示唆しました。Aomatsu et.al(2014)の二次データ解析のため、実用化に向けた研究実施が次の課題です。

Effect of physician attire on patient perceptions of empathy in Japan: a quasi-randomized controlled trial in primary care.

Matsuhisa T, Takahashi N, Takahashi K, Yoshikawa Y, Aomatsu M, Sato J, Mercer SW, Ban N.
BMC Fam Pract. 2021, 22:59.

https://doi.org/10.1186/s12875-021-01416-w

家庭医の白衣着用の有無が、患者の受けとる共感に影響するかを検討した準ランダム化比較試験です。患者全体に対しては、白衣の着用の有無は受けとる共感に影響を与えませんでした。しかし、男性患者に限定すると白衣の着用は、患者の受けとる共感を下げる可能性が示唆されました。

薬局薬剤師における共感性評価尺度の妥当性と信頼性の検討.

石井 充章, 柳 久子.
日本プライマリ・ケア連合学会誌. 2020 43(3), 90-96.

https://doi.org/10.14442/generalist.43.90

日本語版CARE Measureを、薬局薬剤師の共感評価にも拡張可能にした論文です。

シリーズ:初期臨床研修と医学教育(第6回)教育の質の観点からの医師臨床研修制度の考察.

青松 棟吉、高橋 弘明、小西 靖彦、石原 慎、清水 貴子、高橋 誠、中川 晋、望月 篤、安井 浩樹.
医学教育2018, 49(4):333-339.

https://doi.org/10.11307/mededjapan.49.4_333

(*2) How many patients are required to provide a high level of reliability in the Japanese version of the CARE Measure? A secondary analysis.

Matsuhisa T, Takahashi N, Aomatsu M, Takahashi K, Nishino J, Ban N, Mercer SW.
BMC Fam Pract. 2018 Aug 16;19(1):138. doi: 10.1186/s12875-018-0826-2.

https://bmcfampract.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12875-018-0826-2

日本語版 CARE Measure の使用方法に関する評価者間信頼性について明らかにした論文です。

(*1) Validity and reliability of the Japanese version of the CARE measure in a general medicine outpatient setting. Fam Pract. 2014 Feb;31(1):118-26.

Aomatsu M, Abe H, Abe K, Yasui H, Suzuki T, Sato J, Ban N, Mercer SW.
Fam Pract. 2014 Feb;31(1):118-26. doi: 10.1093/fampra/cmt053.

https://academic.oup.com/fampra/article/31/1/118/437171

日本語版 CARE Measure の開発に関する、原文の翻訳・信頼性・妥当性について明らかにした論文です。

名大総診のその他共感関連の研究について

Diversity of academic general medicine: A cross-sectional bibliometric study of original English-language research articles in general medicine and cardiology in Japan.

Takahashi, N., Matsuhisa, T., Takahashi, K., & Ban, N. (2022).
Medicine, 101(11), e29072.

http://dx.doi.org/10.1097/MD.0000000000029072

大学総合診療部門の責任者の研究分野は多様であることを「多様な専門領域の研究者の集合体であること」と「一人一人の研究分野も多様であること」の二点によって示した、循環器内科領域との比較による文献調査研究です。

A Survey of Japanese Physician Preference for Attire: What to Wear and Why
Yuki Yoshikawa, Takaharu Matsuhisa, Noriyuki Takahashi, Juichi Sato, Nobutaro Ban
Nagoya J Med Sci. 82 (4) 2020, Nov; 82(4) 735-745.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7719463/

日本の病院・診療所・在宅で働く総合診療系医師について、それぞれの場での服装の現状や好みを調査した論文です。総合診療系医師は、場所によって服装を変えていることが明らかになりました。

Listen to the outpatient: qualitative explanatory study on medical students' recognition of outpatients' narratives in combined ambulatory clerkship and peer role-play.

Takahashi N, Aomatsu M, Saiki T, Otani T, Ban N.
BMC Med Educ.
2018 Oct 3;18(1):229. doi: 10.1186/s12909-018-1336-6.

https://bmcmededuc.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12909-018-1336-6

外来医療面接実習と、医療面接ピア・ロールプレイ実習を経験した医学生が、外来患者の語りについて、入院患者や模擬患者の語りとは異なると考えていることを明らかにした質的研究の論文です。

懸田賞受賞者によるリレー・エッセイ : 平成27年度受賞 (第22号)

青松 棟吉.
医学教育, 2016, 47 巻, 5 号, p. 322-325, 公開日 2017/08/10, Online ISSN 2185-0453, Print ISSN 0386-9644,

https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan/47/5/47_322/_article/-char/ja/

Medical students' and residents' conceptual structure of empathy: a qualitative study.

Aomatsu M, Otani T, Tanaka A, Ban N, van Dalen J
Educ Health(Abingdon). 2013 Jan-Apr;26(1):4-8. doi: 10.4103/1357-6283.112793.

http://www.educationforhealth.net/article.asp?issn=1357-6283;year=2013(...)Aomatsu

学生から初期研修医になることで、共感がどう変化するか明らかにした質的研究の論文です。

共感 (Empathy) について

  1. Rogers CR: A theory of therapy, personality, and interpersonal relationships, as developed in the client-centered framework. In: Psychology: A Study of a Science Study 1, Volume 3: Formulations of the Person and the Social Context. edn. Edited by Koch S. UK: McGraw Hill; 1959: 184-256.
  2. Eklund JH, Meranius MS: Toward a consensus on the nature of empathy: A review of reviews. Patient education and counseling 2021, 104(2):300-307.
  3. Keshtkar L, Madigan CD, Ward A, Ahmed S, Tanna V, Rahman I, Bostock J, Nockels K, Wang W, Gillies CL: The Effect of Practitioner Empathy on Patient Satisfaction: A Systematic Review of Randomized Trials. Annals of Internal Medicine 2024.
  4. Howick J, Moscrop A, Mebius A, Fanshawe TR, Lewith G, Bishop FL, Mistiaen P, Roberts NW, Dieninyte E, Hu XY et al: Effects of empathic and positive communication in healthcare consultations: a systematic review and meta-analysis. J R Soc Med 2018, 111(7):240-252.
  5. Licciardone JC, Tran Y, Ngo K, Toledo D, Peddireddy N, Aryal S: Physician Empathy and Chronic Pain Outcomes. JAMA Network Open 2024, 7(4):e246026-e246026.
  6. Dambha-Miller H, Feldman AL, Kinmonth AL, Griffin SJ: Association between primary care practitioner empathy and risk of cardiovascular events and all-cause mortality among patients with type 2 diabetes: A population-based prospective cohort study. The Annals of Family Medicine 2019, 17(4):311-318.

名古屋大学医学部附属病院 総合診療科
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/general/

〒466-8560 名古屋市昭和区鶴舞町65番地
TEL 052-741-2111(代表)

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名古屋大学 地域医療教育学寄附講座
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/ecom/

責任者
高橋 徳幸(たかはし・のりゆき)

【プロジェクトメンバー】
松久貴晴(ホームページ作成)高橋徳幸青松棟吉伴信太郎Stewart W Mercer